大人
母のコンタクトを、一度だけ拝借したことがあった。小学生の頃のことで、当時から、私は視力が悪かった。
実際のところ、毎朝超音波の出る機械を十分間瞼に当てる、という視力矯正を行なっていたので、コンタクトが必要はないくらいには、視力が回復していた。
それでも私は冷蔵庫の一角を占領していたそれをこっそり盗んで、登校した。
人のいるところで着けるのは気恥ずかしかった。そこで私は、次の授業に少し遅れて出ることで、人気のないトイレの洗面台を手に入れた。
鏡に向き合って、私はコンタクトの封を開ける。保存液に浮いたコンタクトを指先に乗せると、いつしか見た母の真似をして、目に入れようとした。
コンタクトはうまく瞳に嵌らない。それどころか、レンズは反っくり返るし、開いたままの目は乾くしで、散々だった。私は二十分近く格闘してやっとのことでコンタクトを着けたものの、痛くてすぐに外してしまった。
そして外したコンタクトも容器も、まとめてゴミ箱に捨てた。
またある時、母の化粧品入れから、アイシャドウを拝借した。殆ど使われていない、ブルーのキラキラしたシャドウだった。
私はドレッサーの鏡を覗き込みながら、瞼に青を乗せる。適量という言葉も、化粧の仕方も、ろくに知らないくせに。
おかげで手を止める頃には、ひどく不細工で不機嫌な子供が、鏡の向こうから、瞼を真っ青にしてこちらを睨みつけていた。
大したことない。
コンタクトも、化粧品も。直感的に、私はそう思った。
母の全てが羨ましかった。コンタクトも、アイシャドウも。何気ない日常の全てが羨ましくて仕方がなかった。
母が台所の換気扇の下で吸う煙草も、家計簿をつけるときに叩く、オモチャのようなケロッピの電卓も、トイレのすみに置かれた、小さな可愛いポーチも。
母はあんなに何でもするりとこなしてしまうのに、私には難しすぎた。母の生活を構成する何もかもが羨ましくて、気が狂いそうだった。
だから大したことないと、諦めるしかなかった。私から見切りをつけてやったと言わんばかりに、堂々と。
私は不機嫌な子供だった。こまっしゃくれていて、よく、大人の話に首を突っ込むなと窘められた。
中途半端に聞きかじったニュースや新聞記事の内容を、得意げに話す子供だった。ニュースや新聞を見る日課のない母には疎まれ、ニコニコと聞いてくれるのは祖母だけだった。
大人になれば、そんな不都合は起こらないと、信じ込んでいた。だから私は夜眠るたびに、早く大人になれますようにと祈った。
私はもう二十四になった。
視力矯正はとうの昔にやめたので、コンタクトが無いと生活ができなくなった。化粧の仕方は覚えたし、煙草も吸うようになった。オモチャのようなキティちゃんの電卓を買ったし、可愛いポーチも手に入れた。
親族がする大人の話に首を突っ込んでも、窘められない。何気なく今朝見たニュースの話をすれば、勉強熱心だと上司に褒められる。
私があれほど羨ましがったものは全て、滞りない日常にきちんと収まっている。
大したことないよ。不機嫌だった子供に、そう言いたい。
OpenOffice Writerとの格闘
PCお掃除したときにOffice全般うっかり消しちゃって、CDもないしどうにもならなくなった。しかし、それと同時に「体裁を整えた何らかのテキストファイルをPDFに変換して印刷」したくなってしまった──。
てなわけで、OpenOffice Writerをよいしょっとしてきた。
「次のページ設定」の融通の利かなさに発狂しつつも、なんとか「何らかのテキストファイル」が完成! やったー! あとはPDF化するだけだ!
で、PDFでエクスポートしたらびっくりした。鈎括弧も長音記号も句読点も何もかもがハチャメチャすぎませんか?! 何の嫌がらせかと思った。
いや、「何らかのテキストファイル」が縦書き+よそから持ってきたフォントの時点でいやな予感はしてたけど、これは──……。
しかしエンジニアとしてご飯を食べている人間としてはここで「出来ないからやーめた」はやりたくない。そもそもPC初心者ではない(はず)なので、格闘してみることに。
まずやったこと
・フォント設定の見直し→問題なさそうだった
次にやったこと
・そもそもOpenOfficeWriterっておバカさんらしいので、PDF化ソフトに頼る→cubePDFを入手してみる
cubePDFでやったこと
・とりあえずPDF化→長音記号と句読点は正しいレイアウトになったものの、鈎括弧が不穏すぎる
・プリンターのプロパティ>基本設定>詳細設定より、フォントの代替をやめさせるのと、アウトラインにしとく→鈎括弧、変わらず
最終的にやったこと
・Office購入
☆ありがとうマイクロソフト──……!!
ハンドウェブを捨てて
先日、数年ぶりにラウワンに行ってきた!
いや〜〜朝の4時とかなのにみんな元気!多分大学生だと思うけどメチャメチャ元気だね!
自販機スペースとマッサージチェアに死体が転がってたりもしたけど、全体的に昼か?ってくらい人が居た。
で、アーチェリーとかバスケとか卓球とかバッティングやったわけです。
したら、ハンドウェブがお亡くなりになった……。
アーチェリーではまだ生きてたんですよね。
キックボクシングもまだ大丈夫だった。トランスフォーマーでも生きてた。
でもバッティングで、ガチのマジで消える魔球(65km)と時折乱闘になりながら遊んでたら弾け飛んだ…………。
やっちまった〜〜〜〜!!!!!って思った瞬間パンパンに腫れた上に皮膚がベロベロになったので慌てて外しました。
さらばハンドウェブ、短い命だったけど君が残したシコリは絶対に忘れないよ。
で、ハンドウェブ無くなって寂しいな〜〜と思ってたんで、前からやりたかったオービタル(二個穴を開けて、一つのピアスでくくるやつ)に手を出しました。
前回のハンドウェブでニードル信者になったんで今回も〜と思ってやったんだけど、なんかメチャメチャ痛かった。
左には的場浩司とお揃いのピアスだけつけときたかったんで、右の拡張した穴の上に二個開けることにしたんです。
そんで、まずオービタル用に買ったピアスの内径が8ミリだから、最低でも穴の距離を8ミリ確保しなきゃいけないわけ。
もうスペースが全然ない! ただでさえ小さな耳たぶにマーキングがひしめき合ってる。
でなんとか位置が定まったらニードルの出番です。
セルフだから、真っ直ぐ穴が空いてるのかもわからないし、そもそも鏡が洗面所の壁にあるやつしかないっていう女子力の低さだから完全に博打。
目標はとりあえず「貫通」みたいな。とりあえず「金」じゃなくて、とりあえず「オリンピック出場」くらいの低い志で挑んだわけ。
したら、もうめっちゃ貫通しない。ハンドウェブよりも確実に「ここは通さない」という「意思」を感じた。
やめようかな〜、つって。もういいや、ピアッサーか誰かに開けてもらおう、つって。完全に日和って手を離そうとしたんです。
でもよくよく見たらもう表側は刺さってるわけですよ。
完全にスタートを切っちゃってる。賽はもう投げられてるんです。
これここでやめたらめんどくさいやつだ……ってことで、再度チャレンジ。
時折休憩挟みつつ、頑張ったらようやく裏側に到達。でも出てこない。ここで完全に「オービタルはやめよう」って感じまで萎えてる。
でも一応開けとかないとニードルも勿体無いし……て頑張って、20分かけてようやく開通。そっからニードルとピアスを押し込む地獄をなんとか乗り越えて、とりあえずホールが一つ誕生です。
次は二つ目ですよ。
開ける前は「ファーストピアスからオービタルにしちゃお」くらいのテンションだったのに最早「穴は一個でいい」レベルまでガタ落ち。
でも後から開けたくなったらニードルが一本無駄になる。一本100円もしないニードルに勿体無さを感じながら考えて、結局なんとか二個目のホールに取り掛かることに。
けどこれがまた痛い! 下手したら軟骨っぽい位置に開けるんだけど本当に痛かった……。
耳元でニードルやると貫通時に「ブツッ!」って音がしてそれが滅茶滅茶「悪いことしてる」って感じで怖いんですけど、一個目のホールはともかく、二個目のホールは一回フェイクでブツッとやられてほんとひどかった。
貫通したと思ったら全然してない! もしやこれ軟骨の音か?! と怯えながらぐりぐりとニードルを押し込む。もうほんと生きた心地しなかった…………。
まあでもなんとか二個空いたので良かった。あとはホールが曲がってないことを祈るばかり……。
もうこの痛みに懲りてピアスは開けないでおこうと思ったけど、オービタルが出来たら今度はトラガスに開けたい。
ハンドウェブ
ピアス、拡張してからというものの開けたい欲が止まらない。
昔は8個空いてたけどピアスのデザインの調和が取れなくなって2個に減らした。で、開け直すのめんどくさくてそのうちの1個を14mmまで拡張した。ら、なんかめっちゃ開けたくなってきた…………。
でも耳たぶにつけるのめんどくさいし、拡張した横に開けるのは怖いし、インダスは美容院でひどい目にあったからもう開けたく無いしで、色々ググって見つけた。
ハンドウェブ、めっちゃいいじゃん。
なんかオシャレじゃん。
てことでハンドウェブ開けました。
ニードル買ってきてセルフで。
したらめっちゃ硬い! 指と指の間のスペース、普段は薄いアピールしてんのにめっちゃ分厚いし硬い! ベルリンの壁かよ!
しかしあんだけ言われてたベルリンの壁も崩壊したので、気合い入れてやってやりました。
ものすごい痛かった〜〜〜!!!!!
痛かったけどスルン!て感じで出血もなく無事空いたよ。空いたけどメッチャ痛い……。
排除されないように大事に育てていきたい。排除されたらまた開けよう。
あと今回初めてニードル使ったんだけど、ピアス開ける時に絶対ニードルを勧められる意味がわかった。
めっちゃ開けやすかった。あと綺麗に穴があいた気がする。
今度からニードルであけよ。
私の右手は男子高校生
字、上手いですか?
大人になって気づいたんですが、システムエンジニアでも字を書く機会ってめちゃめちゃある。
学生時代はまあ「こんなもんかぁ」って感じでしたが、大人になったらもうパソコンと二人三脚で生きていくから書く機会は減るだろうな、と。
全然そんなことなかった。めっちゃ書く。
コンビニのポイントカードの申込書にも書くし、ファミレスの順番待ちの名簿にも書く。住民票取るときも書くし、フツーになんかしら書くものはいっぱいあった。
まあ私も元キャバ嬢だし、学生時代はアホほどプリクラ撮ってたんで、そういうところで書くべき文字は普通に書けるんです。
でも書類ってそうはいかない。読める字ならなんでも書いてもいいけど、でもそういう字って恥ずかしい。そういう意識が芽生えてきた。
オトナだ……!!!!!!
でね、まあなんか、私も大人な字で書いた書類を読まれる機会が度々ありまして、その度になんか読み間違いとかがあったりしたんですよ。
家借りるときもね、「あっこれは……」って感じで差し戻し食らったことがある。
たまに受付やらのお姉さんが「あっこちらで描きますね」つって書いてくれたこともある。
その時に、あれ?つって。
あれ?私もしかして字汚いんじゃない?って。
気づいたね。
24にして気づいた。私は字が汚い。
とはいっても小学生の頃は硬筆習ってたし、まあまあ可愛い字もかけるし、そこまでは……っていうプライドもあった。
あったから、ちょっと手元に紙とペンを引き寄せて書いてみたよね。
ツイッターでも晒してみたんだけど、ビックリした。
こう、自分の手元にあるとそうでもないんだけど、写真に収めるとものすごく客観的に見えるじゃない?それで魔法が解けたよね。
メッチャ汚い……マジで汚い……。
よくこんな字を恥ずかしげも無く晒してたな、ってくらいに汚い。相当に汚かった。
勉強が苦手な男子高校生レベルだった。私の右手。
綺麗さ、男子中学生に辛勝するレベルしかなかった。
もうこれはいかんと思ったわけです。
でね、じゃあどうやんのさって話。どうやって字を綺麗にするのさって。
ググりました。グーグル先生に教えを乞うた。
したら、フォントを印刷してそれ毎日なぞればいいじゃん、つって。かしこまり!つって。
てなわけで、青空文庫からいくつか文章を引っ張ってきて、我らが明朝体さんに変身してもらって、コンビニで適当に印刷してきた。
それをね、こうなぞってたら、いつの間にか字が綺麗になるって算段よ。
……ほんとかな?
まあとりあえず、飽きるまではせこせこなぞります。
字、綺麗になるかなぁ〜〜。
おねしょしましたよね?
半年前かな……多分半年前に「おねしょしたよね?」っていう記事を書いた気がする。
もうその記事読めばわかるんだけど(何書いたか覚えてないんだけど)、おねしょされたんです。彼に。
泥酔状態だったんで仕方ないんですけど、おねしょされました。彼に。
布団干したりしたけど、結局新しいのを買い直したんです。おねしょされて。彼に。
でね、先日半年ぶりくらいにあったわけです。
タイムリミットは三日間です。もう思う存分楽しみました。
指輪もらっちゃって、もうウキウキみたいな。
私たち結婚を目標に遠距離恋愛がんばろうね、みたいな。
もうすっごい幸せ。最高の三日間だった。
で、一日目にね、お互いほろ酔いで気分も良かったから、カラオケ行くかぁつって行ったの。飲んでたお店から徒歩5分くらいのとこのカラオケ店にね。
そのたった五分で、なんか街も静かだし、しんみりして、いつも一緒にいた時って色々あったよね、つう話になったわけ。
酔って財布も携帯もなくしてどっかに泊まって来たことあったよねとか、そもそもこんな飛行機の距離に住んでんのに、出会って付き合うってすごい確率だよねとか。
もうね、そういう話してたらだんだんテンションがおかしくなって堪え切れなくなったよね。聞いちゃった。
「おねしょしたよね?」つって。
あのね、すっっっごく雰囲気良かった。
いつもザワザワしてる駅前なのに、全然人いないの。
信号機が誰もいないのに律儀に赤と青繰り返してんの。
終電乗り過ごした人を拾うタクシーも心なしか少なくて、いつもアホみたいにする酔っ払いの騒ぐ声もその時はしなかった。
そんで、私の手には指輪です。
さっきの店でもらった指輪。お揃いの指輪。もうキラッキラ。
カラオケ行ったら絶対最初はaikoのキラキラでいこうってくらいキラッキラしてた。
もう半端ないくらいドラマみたいな世界だった。
そこで聞いたわけ。おねしょしたよね、つって。半年前くらい前に。
いろんな思い出があった半年前の話してる最中に。赤信号が変わるの待ちながら。
堪え切れなかった。事実確認しておきたかった。
ていうか、私たち結婚するからもうそういう話に踏み込んでもいいよね、っていう何らかの意識もあったと思う。
とにかく私は聞いた。聞いたよ。
「うん、した」って。
的場浩司が、めちゃめちゃ素敵な雰囲気の、静まり返った駅前でアッサリ答えた。
「おねしょしたよ」って。
もうそれだけでなんか、ああおねしょしたっていう恥と秘密に踏み込むのを許されてるのかぁ、つって、感動した。
「おねしょするほどお酒飲まんでよ」って言っておねしょについての話は終わったんだけど、なんかすごい良かった。
なんか良かったけど、おねしょはしないで欲しかった。
そんだけ。
追記 フツーに一年前の記事でした
インフルエンザ
インフルエンザになったよ、そんで熱が下がりません。
脳みそぶっ壊されたのかもう高熱でも熱を感じなくなった。死期が近い……。
どうせ解熱後二日間暇だろうと思って模様替え予定してたんだけど無理そう。
あ〜〜健康になりてえ〜〜〜〜